水平対向型エンジンの特長・解説

水平対向型エンジン

解説

このような構成のエンジンは直列2気筒とほぼ同等の短いエンジン全長と非常に低いエンジン全高を実現でき、シャーシに対するエンジンの搭載位置を低くして車体重量バランスの改善を図る事が出来る上、エンジンの振動面で良いバランスを持つ。そして効率的な空冷装置と組み合わせる事にも適している。しかし、V型4気筒に比較してやや広めのエンジンルームが必要であり、一般的な大衆車やビジネス向けオートバイに使用するには製造コストが高いエンジンの為、現在ではこの構成を採用する自動車メーカーはそれほど多くはない。[1] 一方、航空機においては星型エンジンよりも小さな前方投影面積を持つ水平対向4気筒は機体先端の小径化に貢献する為、ライカミングやコンチネンタル等のエンジン製造メーカーが小型飛行機向けの空冷エンジンを多数製造しており、小型航空機では比較的一般的な構成である。 水平対向4気筒は直列4気筒と比較してエンジンの大きさや振動面、エンジンの重心面でいくらか優れた面を持つが、その反面クランクシャフトの構造が複雑化し製造の手間やコストの面で不利である事や、シリンダーヘッドやカムシャフトが直列4気筒の倍の個数必要となり、OHVからOHCに発展させる為の設計にも技術的な制約が大きかった為、大衆車のエンジンとしては今日ではあまり用いられなくなった。しかし、水平対向4気筒の広いシリンダーバンクは水冷式と同様に空冷式レイアウトの採用にも有効であった為、水冷エンジンが一般化する以前の初期の大衆車では大きな空冷フィンと強制空冷ファンを持つ水平対向4気筒が広く用いられていた。 水平対向4気筒は通常、後輪駆動車のうちリアエンジンやミッドシップレイアウトに多く用いられる。後軸の重心をできるだけ低く保つ意味でも水平対向4気筒の採用は有効であった。車両によっては水平対向4気筒をフロントエンジンとして配置する事もあるが、この場合は車体後部のデザインを低くする事が可能である反面、エンジンの広い横幅が前輪の操縦系統の配置に影響を及ぼす可能性が高くなる。日本のスバルは黎明期よりフロントエンジン・前輪駆動レイアウトの水平対向4気筒を採用しており、今日ではトランスファーの付加によって4WDに発展させる事で水平対向4気筒の利点を最大限に生かした車両作りを続けている事が世界的にもよく知られている。

利点

水平対向4気筒は直列4気筒やV型4気筒などの他の4気筒エンジンに比べ、エンジンの振動バランス面で大きなアドバンテージを持っている。直列4気筒はエンジンの振動(特に二次振動)が大きく、大排気量・大出力となる程にこの傾向が顕著となる為、2.0L以上の直列4気筒にはバランスシャフトが追加される事が多く、乗用車用のガソリンエンジンには3.0L以上のものはまず見受けられない。水平対向4気筒は左右のピストンが互いの振動を打ち消し合う作用を行う為、横軸方向の振動が少ない。実際にはクランクシャフトのクランクピン分シリンダーがずれて配置される為に、エンジンの前後方向に若干の二次振動が発生するが、直列4気筒の二次振動と比較すれば遙かに小さい為通常はそれほど問題にはならないので、通常は水平対向4気筒にはバランスシャフトは用いられない。なお、水平対向4気筒のクランクシャフトは一般的にメインベアリングが3個のものが多く、中央のメインベアリングには大きな負担が掛かる。その為、現在では耐久性を重視してエンジン全長がやや長くなるリスクを取ってでも直列4気筒と同様の5ベアリング構成を選択するエンジンも多い。 水平対向4気筒は構造上比較的エンジンの振動が少ない構成ではあるものの、直列6気筒や水平対向6気筒のようにエンジン単体で完全バランスが達成できるわけではない。他の4サイクル4気筒エンジンと同様に、各ピストンの燃焼行程を4サイクルの各行程に完全に合わせてストロークを発生させる事が出来ない為である。この為、水平対向4気筒は4気筒エンジンとしては振動が少ない構成でありながら、その製造コストの高さから大衆車では殆どのメーカーがバランスシャフトを備えた直列4気筒に移行し、ハイパワーが求められる上級グレードではエンジン単体で完全バランスが達成できる直列6気筒や偶力振動への対処のみを行えばよいV型6気筒が選択されるようになり、コンピュータシミュレーションによる複雑なクランクシャフト設計やバランスシャフト技術の進歩、エンジンマウントの振動抑制性能向上などによって高コストを掛けてまで水平対向4気筒を選択する余地は少なくなり、現在では少数派となっていった。

自動車用エンジン

チェコのタトラは1926年にタトラ・T30で空冷水平対向4気筒を初採用、1930年のT52、1931年のT54とT57、1933年のT75にもそれぞれ排気量が異なる空冷水平対向4気筒を採用している。1936年のT97はリアエンジンレイアウトとなり、バックボーンフレームとの組み合わせは後のドイツ第三帝国のen:KdF-Wagen及びフォルクスワーゲン・ビートルにも深い影響を与える事になった。 イギリスのen:Jowettは水平対向2気筒で著名なメーカーであったが、1936年にJowett Tenに1,881ccの水平対向4気筒を採用。戦後の1947年にはGerald Palmerの手によりen:Jowett Javelinが開発され、1950年にはen:Jowett_Jupiterも登場、それぞれが排気量の異なる水平対向4気筒を搭載していた。同時期にモーリスに所属していたアレック・イシゴニスは、en:Morris Minorに水平対向4気筒を搭載する設計を行ったが、費用面で市販車両への搭載は実現しなかった。 1955年式ポルシェ・550スパイダーの水平対向4気筒ドイツのフォルクスワーゲンはビートルやその他の車両に空冷式水平対向4気筒を幅広く採用していた。ポルシェもポルシェ・356に水平対向4気筒を採用、後にポルシェ・912やポルシェ・914にも水平対向4気筒を採用したが、このうち914はポルシェ・911の水平対向6気筒に切り換えられている。なお、ポルシェの車両に搭載された空冷式水平対向4気筒は元々はビートルに搭載されたものと同じエンジンである。 同じドイツのボルグワルドは1957年3月にジュネーブモーターショーに1,100cc水冷水平対向4気筒・前輪駆動のen:Goliath 1100を出展。 翌年にHansa1100と名称が改められ、1961年まで製造された。 フォルクスワーゲンは1982年にそれまでの空冷エンジンを水冷化したen:Wasserboxerエンジンを開発。三代目VW Type 2にドイツ本国では1992年まで。ブラジルでの現地生産バージョンであるen:VW Kombiでは2005年まで搭載されていた。 フランスのシトロエンは1961年のシトロエン・アミ・スーパーに始まり、シトロエン・GS/GSA、シトロエン・アクセルに空冷水平対向4気筒を搭載、1990年まで製造を行っていた。 イタリアのアルファ・ロメオは1971年に水冷式水平対向4気筒を開発。同年発売のアルファロメオ・アルファスッドに搭載した。1984年には日産自動車からN12パルサーの車体供給を受け、これに自社の水平対向4気筒を搭載したアルファロメオ・アルナを発売、ヨーロッパ日産でも「ニッサン・チェリー・ヨーロッパGTI」として販売された。このエンジンは他にもアルファロメオ・33、アルファロメオ・スプリント、アルファロメオ・145、アルファロメオ・146にも搭載され、145/146が1997年に生産を終えるまで26年間に渡り製造され続けた。 イタリアでは他にもランチアが1961年のランチア・フラヴィアに水冷式水平対向4気筒を搭載、1984年生産終了のランチア・ガンマまで搭載されていた。 日本の富士重工業の自動車製造部門であるスバルは1966年にスバル・EA型エンジンを搭載して登場したスバル・1000以来、現在のに至るまで主力車種の全てにスバル・EJ型エンジンに代表される水冷式水平対向4気筒を採用している事で世界的に有名である。なお、スバルは自社製の水平対向4気筒にHorizontal-4を意味するH4という略称を名付けているが、H型エンジンとは直接の関係はない。 スバルの水平対向4気筒搭載車種の特徴は、フロントエンジンとして前軸付近にエンジンが縦置き搭載され、駆動方式に前輪駆動を採用している点にある。このようなレイアウトはセンターデフ(トランスファー)との併用により4WDへ発展させる事が比較的容易であるという利点がある。現在スバルは全ての車種に4WDのグレードを用意しており、世界的にも水平対向と4WDの専門メーカーとして広く認知されている。

水平対向4気筒エンジン(スバル,ボクサーエンジン)

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